私が高校の時の修学旅行の話しです。今から30年以上前の話しです。
修学旅行で奈良・京都へ行きました。京都の宿泊場所は老舗の旅館でした。
夕方、旅館に着くと、クラスメートの女の子が膝が痛いと言い出しました。
どうやら、お寺の階段でひねってしまったようです。ひねったあともたくさん神社やお寺をまわったので、余計に痛くなってしまったようです。
同じ部屋のもう一人の女の子があわてて先生のところへ相談に行きました。
先生は救急箱は持っていましたが、湿布薬は持っていませんでした。
そこで、先生は旅館の仲居さんに「近くに薬局はありませんか?」と聞きました。
近くに薬局はないとのことで、先生が困っていると、しばらくして仲居さんが先生の部屋に来られました。
お盆の上に小麦粉とお酢をのせて持っています。ガーゼと包帯もあります。
小麦粉をお酢で溶いたもので、湿布の代用が出来るそうです。
おばあちゃんの知恵みたいです。
先生は膝が痛い女の子を先生の部屋に連れてきました。
仲居さんが手際よく小麦粉をお酢で溶いたものをガーゼに塗って膝にあてて包帯をしてくれました。
夜になって、布団を敷いて寝ようとすると、その女の子がケラケラ笑いだしました。
「どうしたの?膝痛い?」
同じ部屋の友人達が心配して起き上がってくると、彼女は
「布団の中が酸っぱいにおいでいっぱいだ」と笑っています。
私たちも笑ってしまい、確かに布団どころか部屋中酸っぱいにおいがしています。
笑いながら、私たちは眠りにつきました。
翌朝、観光へと出発しようと玄関に行くと、昨日の仲居さんが小麦粉をお酢で溶いたものを準備して待っていてくれました。
「今日も歩くでしょうから、ガーゼを取り替えてから行かれたほうがいいと思います。」とのこと。
ありがたく、彼女はガーゼを取り替えてもらいました。
効果が抜群だったので、彼女は予定通り観光を楽しむことができました。
彼女は「制服も酸っぱくなった!」と笑っていましたが。
観光の予定を終えて宿に戻ると、また仲居さんが小麦粉を持って待っていてくれました。
「腫れていない?腫れていなければ、お風呂入ってからガーゼ取り替えましょう。」と言って下さいました。
彼女は涙がこぼれそうなほど、有難かったそうです。
お風呂に入ってまたガーゼを取り替えてもらいました。
翌日は東京に変える日でした。彼女は仲居さんに何度もお礼を言っていました。
東京に戻ってから、彼女は病院へ行きました。
思っていたよりも膝の状態は悪かったそうです。
ひねった直後の処置が悪かったらもっと大変なことになっていたと言われたそうです。
仲居さんの「小麦粉とお酢」は適切な処置だったのです。
彼女はしばらく通院を余儀なくされ、体育も見学ばかりになってしまいましたが、
一生に一度しかない、高校の修学旅行を無事に参加できたのは仲居さんのおかげだと言っていました。
今でも卒業アルバムを見るたびに思い出して笑ってしまいます。
高校を卒業して何十年も経ち、私は結婚して子供も生まれました。
子供が足ひねったというたびに「小麦粉お酢で溶く?」と言って
家族で笑い話をします。
仲居さんのおかげで大変なケガも笑い話になって良かったと思いました。
流石、老舗旅館の仲居さんだけあって、いろいろな対応ができるのだなと思いました。
京都はお寺や神社が多く、階段も多いですが、階段が悪い訳じゃないんですけどね。
たまたま、前日の雨で滑って膝をひねってしまったのだと思います。
彼女は無事にケガを治し、大学へ進学しました。
今ではすっかり元気になって結婚し、ママとなって走り回っています。
スポーツも出来るくらい元気だそうです。
流石と思った老舗旅館の仲居さんのお話でした。