夏の京都で感じた清々しいおもてなし 左源太

2015年の夏、41歳の私は、転職した会社の仕事で心身ともに疲れ果ててしまい、休職を余儀なくされていました。具体的には原因不明の発熱に苦しみ、心は荒み
身体は疲れ果てた状態でした。
なかなか体調も戻らず、途方に暮れていた中で、「そうだ、京都いこう」とまるでCMのように閃き、
妻を連れて急遽京都旅行に行く事にしました。

実はこの京都旅行、体調が優れず仕事に復帰も出来ないのであれば、生きていても仕方が無いなと思っていたんです。妻とは出会ってから10年ですが、あまり一緒に旅行した事がなかったので、だからこそ最後に好きな場所を旅行したいなと思っていたんです。

日程も決めてから1週間と短く新幹線とホテルの予約だけで、あとは現地で好きな事だけしてリフレッシュしようと思っていました。
「とにかく現実から逃げたい」そんな思いがあったのかもしれません。

新幹線での移動は快適でしたが、外は真夏。京都も35度近い気温でした。
京都に着くと、晴天で刺すような暑さ。汗は噴き出し、熱がある私はとてもじゃないですが、外に30分も立っていられません。

そのため涼しい場所に行きたいなと考えていたところ、昔一度行った時に、ゲリラ豪雨で満足に楽しめなかった「川床」にもう一度行ってみようと思い、川床料理の左源太さんに電話し、予約をしてみました。

すんなり予約が取れたのですが、まだ夏休み前の7月初旬だったのが良かったのかもしれません。
今思えばこの選択がとても良かったです。
この時はまだ何も気が付かず、「平日だし空いているんだろうな」としか思っていませんでした。

夏の京都は、とにかく暑いですが、京都駅から1時間と少しかけて
左源太さんがある貴船に着くと、貴船はとても涼しく爽やかな空気でした。木々は青々と茂り、川の流れも迫力があり、見応えがありました。

天気も晴天だったので、今回はようやく川床料理を川床で食べられると思った時、おかみさんが、案内してくれた先は、特等席も特等席、プレミアムモルツのCMのワンシーンを思い起こすような一番迫力があり、写真映えもする角席でした。

「せっかく来て頂いたのですから、一番良い席で川床料理を堪能して頂きたいですし、東京から来られたのでしたら、お疲れでしょうからゆっくりされて下さい。」とのお言葉を頂きました。

その後喜ぶ妻を見ながら、私は料理をゆっくり食べながら川の流れを見ていました。
そして料理を運んできて下さる方と何気なく話をしていると、なぜか川の流れと人生の話になりました。そしてなぜここに来たのか、京都で何をしたいのかなど自然と話していました。

なぜそんな話になったのか、どうして無口だった私に話しかける気になったのかそれは分かりません。でもそんな時間を小一時間過ごしているうちに、自分の心の中に活力の種火が、ぽっとついた気がしました。

京都は歴史のある町で、老舗さんもたくさんありますが、その昔は貴族の遊びだった川床は、何かと忙しい今の時代では、心を癒してくれる空間になっています。
料理は身体を作るものですが、誰と食べるのか、どこで食べるのか、どんな精神状態で食べるのかによって雲泥の差が出ます。私は夏の京都で最高のおもてなしを受けました。

これからも夏に京都に行く時は是非利用したいと思いますし、
京都の魅力が今までとは違った、おもてなしの魅力と心温かい方々がいる歴史ある町と感じるようになりました。

京都から2週間後、病気の原因が分かり、その2カ月後無事仕事に復帰出来ました。
そして今でもあの日京都で過ごした時間を思い出すようにしています。
二度と仕事で身体を壊すように自分を追い詰めないために、そしてその気持ちを悩んでいる誰かに遣ってあげられるように。

いつか京都に住む事が私の目標にもなりました。