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  • 株式会社 中村軒
  • 株式会社 中村軒

    始まりは桂川の渡し舟を待つ人々の休憩場所だった。またこの桂川の周辺は農地が多く、農業をいそしむ人々の休憩時間のおやつとして餅を出していた。

    代金は掛けでつけておき、精算は農作物の麦と交換したところから、麦代餅が生まれ、今中村軒の名物として親しまれている。

    これに挟まれている餡が絶品で、甘すぎず、柔らかくてなんともいえない旨さなのである。それもそのはず、昔からの製法であるおくどさん(かまどのこと)でクヌギの薪を使って、餡場の担当者が精魂込めて炊き上げているのである。

    しかしその製法も少し前までガス釜に取って代わられていた時期があったそうだ。そのあたりのいきさつも含め、次期後継者の中村亮太専務からお話をお聞きした。

    いくつもの示唆に富んだお話をいただいたが、当研究会で提案している企業継続のためのつの仮説の実証・検証としてまさにあてはまる事例を中心に取り上げてみたい。

    Ⅰ.変えるべきものと残すべきものを明確に区分する

    1. 目に見えぬ代々伝わる家訓「お客様に喜んでもらえることを一番にする」
    「目の前の自身の損得ではなく、お客様の利益を優先する」を守り抜く。

    この 10 年間に生じた老舗の不祥事は大変お粗末な内容のものばかり。賞味期限の改ざん、原材料の生産地偽証など分からなければそれで済むといった、老舗の信頼に胡坐をかいた高慢な態度から来るものであった。創業者の精神とは程遠い、お客様の利益より、自社の利益を優先させた身勝手なものである。

    それに対し、ここ中村軒では、代々引き継がれてきたお客様第一主義は五代目の後継者にも色濃く残っている。そこに安定した業績とお客様の変わらぬ信頼がある。

    言葉で言うのは簡単だが、それを実践という形で 100 年以上続けておられる中村軒こそ、京都の老舗を代表するお店であるといえよう。

    実際、朝生と呼ばれる朝作ってその日中に食べていただこうという和菓子のお店は京都には数多くあるが、その中でも中村軒の餡は最高と味にうるさい京都人に噂されている。

    2.変えてはならぬものの上に、歴代当主が時代に合わせ変えるべきを変えてきた。

    お客様第一主義は基本である。しかしお客様のニーズは時代とともに変わっていく。お客様に喜んでいくためには、その時その時の臨機応変な対応が鍵になってくる。

    ①販路の開拓もお客様が買いやすくなるという点ではニーズの対応といえる。

    よって現社長は積極的に百貨店へブースを設置し、街中に売り場を拡大した。その結果、時代はバブル絶頂期で需要が急成長し、供給が追いつかなくなってきた。

    そこで今の手作業による餡炊きでは不足気味となってきたため、ガス釜による餡炊きに変更した。味に一切影響なければ、機械化も OK という経営判断の元、実行に踏み切った。

    確かに出来たてではほとんど差がない。 先祖の教えは、特に二代目は、死ぬ間際に餡は薪で炊けと言い残したほどである。時間を置くと餅の固さ、餡の柔らかさに微妙な差が出ると皆が感じていた。

    しかし 10 年間続けた。次第に地元のお客様が減少してきた。社長は悩んだ。そんな時息子である専務が古い職人達に聞いてみた。おくどさんで薪を使った餡炊きに戻せないか、と。皆一様にその意見に賛成し、社長に進言し、元に戻す決断が下された。

    しかしこれまでの生産量を維持していくためには、職人達にしんどい作業やこれまでより時間がかかる作業を理解してもらう必要があった。職人達は皆そのことは既に了解済みでそれが仕事と言い切った。

    昔からの職人はかえって戻すことを喜んだ。 皆の心には、お客様においしく食べてほしいという、創業以来変わらず伝わる家訓が浸透していたのである。今では職人達が一致団結して利益が出る体制へと変わってきた。

    私がこの話を聞いて感じたことは次のとおりである。

    現社長が行なったガス窯による餡炊きは間違いだったのか。私はそうは思わない。バブル当時売上が大きく伸びた。それに合わせ当時の製法では到底供給が間に合わない。

    それでは折角お待ちいただいているお客様にうちの名物を食べていただけない。また、ガス釜にすれば、味もほとんど変わらず、職人の手間も減り、時間的余裕も生まれる。

    その時間を使って新たな商品開発も可能になる。実行したことにより、そうしたメリットを享受できた。また元に戻すことになった今でも、ガス釜を実行したことで、やはりこのおくどさんで薪による餡炊きが最高だと認識できた。

    このことは社長の決断があって初めて得られた大きな効果であるといえよう。

    Ⅱ.将来のビジョンを示し、その達成のために必要な人財をトップ自ら育てる

    1. 和食のスイーツパティシエを目指す その心は・・・

    ①朝生の和菓子屋にとって、お客様を目の前にして最高の和菓子を最高のおいしさで出せることが最も嬉しいこと。洋食のフルコースではメインとデザートで料理する者が異なる。シェフとパティシエというように。

    しかし和食の料理人は全てをこなす。洋食のように和食もデザートは和食のパティシエがデザートを提供する形態もあっていいのではないか。そんな和食のスイーツパティシエを当店から出したい

    ②そうなると職人一人ひとりがプライドを持って、味へのこだわりを持ち、自分の腕を上げていかねばならない。そこに自分が生かされることの喜びが生まれるのではないか。

    ③そこで従業員全員に対しては、自分のやったことを認めて、誉めて伸ばすことを基本とした。

    ④自分の仕事はお客様が判断する。毎回がコンテストのように真剣勝負で臨む。経営者の目を気にして仕事をしないでほしい。

    ⑤何か一つでいいのでお客様への小さな幸せを提供する気持ちを持ってほしい。

    ⑥人事考課としての能力の判断基準は家訓に基づき、お客様の為に何をしているかである。

    ⑦自分がいいと思うことはやりなさい。後処理は経営者が行ない、最終責任を持つので安心してやってほしい。⇒これを経営者の役割と考える。

    Ⅲ.売り手よし、買い手よし、世間もっとよし

    やはりここでもお客様目線での三方よしが基本である。

    ①クレーム対応について、お客様に正論を言ってはいけない。

    その場では社長・専務が表に立って、謝罪する。周りのお客様にも気を使うべきで、さすがは中村軒だと思われるような対応をしなければならない。

    クレームをおっしゃったお客様も今後もまたお客様でいていただける対応をし、周りのお客様はこれまで変わらずお客様でいていただけるように誠意を持った対応に心がける。

    ②当社の存続のためには、適正規模を守るということが重要。

    仕入先を犠牲にして、自社だけが大きくなるとか、お客様の負担で自社が大きくなるというのは、いつかおかしくなる。経営者として正しい判断は、元々狭い範囲から生まれたものなのだから、無理に拡げるのは無理があると考えるべきである。

    参加者の方からの言葉で即実行したいこと、感想をいくつか取り上げる。
    ・ 中村軒さんはお客様が大事にしたい店、育ててくれている店。専務にもファンがついている。
    ・ 判断基準のバランスが良い。
    ・「美しく心地よく」を弊社なりに実践すべきと痛感しました。
    ・「わざわざウチを目標(目当)に来てくださるお客様の期待感を裏切らない」を即実行したいです。
    ・ 常にお客様の目線で自社を客観的に見ながらお客様のご要望に応える努力を続けていきたいと思いました。
    ・ 自社のサービス・商品を市場(お客様)への問いかけたとき、整合性は取れるのか。を自問自答します。
    ・ 自分もものづくりをしていて、手で作る良さをどのように説明したらいいのか、ちょっと分かったような気がしました。
    ・「お客様に喜んでいただけることをどんなにちっちゃなことでもいいから考える」という哲学を今、受け持っている専門学校生に教授したい。

    以上

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    この記事を書いた人
    京都100年企業
    林 勇作

    1965年8月28日生まれ
    大阪市出身

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